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  • 執筆者の写真しのづか裕子

樋口わかなさん「やきものの科学」著者

更新日:2022年11月13日

樋口わかなさんに初めて実際にお会いしたのは2021年の8月のことだった。

5月に誠文堂新光社から出版された「やきものの科学」の書評を私が母校の学会誌に寄稿することになり、彼女にインタビューをさせていただくことになっていた。

当初は大学の陶芸研究室で講師陣も交えての予定だったが、コロナウィルス・デルタ株のピークを迎えていた頃でなかなか厳しい状態だったこともあり、出版社の一角をお借りしてごく少人数でお会いすることになった。


2020年後半に関わっていた発注仕事で私は釉薬に行き詰っていた。

色と艶にこだわって長年使ってきた釉薬が、原料の質の変化に対応しきれなくなっていて、バランスが取れなくなっていきていた。

理科的アプローチに疎い私は、なるべく手あたり次第やってみて結果良いものを探すという手法を採ってきたのだが、何度目かの限界を感じ、今回ばかりは正面から取り組もうと家にあった原料学の本から勧められた資料までいろいろと漁っていた。

そんな時友人からこれ良いですよと勧められた本が、樋口さんが2007年に出された「焼き物実践ガイド」だった。

最初目を通したときに感じたのはこれは一体?というほどそれまでに目にして本たちとは違って見えた。


その本は基本的にQ&A方式で書かれていた。

陶芸の現場で起きる様々な事象、トラブル、疑問などに丁寧に向き合い、メカニズム、プロセス、原因、解決法などを系統だって示してくれていて、問題を解決するための姿勢をその先に感じることができた。

早速手に入れようとして検索すると、その本は既に販売を終了しており、わずかに中古市場で10倍以上に高騰していた。

とりあえず友人の本をコピーさせてもらって満足することにしたのだったが、それから数カ月たったある日、たまたま書店で飾られていた「やきものの科学」を家人がピンときたらしく、買ってきたくれたのだった。


その本は2007年に出版された本に再編集を施して、新たに新刊として出版されたものだった。元本は一度販売を終了したものの、根強い人気と再販の要望も多かったらしく、新たに全国展開する目的を持って新刊として出版したものだった。

奇遇にもその再編集に関わっていたのが直近の先輩だったので、出版して下さった感謝のメールを送ったところ、彼が編集に関わることになっている「陶磁芸術」という、新たに発足した日本陶磁芸術教育学会誌第1号に書評を書いてほしい、という依頼を受けることになってしまった。予想外の展開にかなり迷ったのだが、樋口さんにお会いして感謝の気持ちをお伝えできるという誘惑には勝てず、取材と称してお会いできることになった。

樋口さんは、想像以上に妖精のようでとても軽やかでエネルギッシュで、不思議な空気をまとっていらっしゃる方だった。


陶芸教室で陶芸に触れた後20代でメキシコに渡り、メキシコシティ近郊のトルーカ市にある陶磁器専門学校で、焼き物の理論の授業を受け持つことになった樋口さんは、独自にその学校の蔵書で勉強を始められた。専門書は難しく教材に使えるものが無かったため、生徒達へのテキストを作るために勉強し、わからないことは実験し、産業の現場にも赴き、メキシコの陶磁器業界とも積極的に交流を深めていった。

そうした20年近くの時間の積み重ねのうちに、テキストは充実し精度を極め、教材としての出版を考えるようになり、メキシコからご自分で売り込まれ、日本語版とスペイン語版を出版された。


その本の目次の一部をご紹介する。

1章 やきものを地学で科学する 地球の地殻の創生から粘土の誕生、分類、性質などを結晶構造などの図解。

2章 やきものの成形と化学変化 乾燥のメカニズム、鋳込みに関しては多くのページを割いている。そのことを質問したところ、鋳込みは世界中で個人でも産業としても広く行われており避けては通れないものだからおっしゃっていた。

3章 やきものの焼成と化学変化 焼成によっておこる現象を熱科学的見地から解析、歪みが生じるメカニズムなども説明している。

4章 釉薬の基本と調合 釉薬の溶融について、ゼーゲル式、透明釉、不透明釉、色釉について原料から調合例(107種)も示している。

5章 釉薬の原料 釉薬の構成要素を理解するという目的から、使用されるほとんどの原料について丁寧に解説している。顔料について。

6章 釉薬トラブルの原因と防止方法 特に特徴的な章である。 貫入、ハゼ、ブク、縮れ、ハゲ、ピンホールなどそれぞれの原因、メカニズム、防止法を図解を交えて説明している。

7章 化粧土 化粧土の基本、調整、色化粧、調合など。


この本は陶芸初心者というよりは、陶芸に携わっている方々にとってのバイブルとなりうる、とても貴重な良書である。

読み物としても、地球の中の陶芸や原料といった視点で造詣を深めることができるように思う。


 

やきものの科学 樋口わかな著 誠文堂新光社刊 (B5判 240ページ)2021.5.28刊

ISBN-13 978-4416521618


陶磁芸術 第1号 日本陶磁芸術教育学会(JSCAE) 2022.3月発行


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