地のイリス 2024/5/8~13
- しのづか裕子
- 2024年9月21日
- 読了時間: 3分
更新日:3月5日
日本橋髙島屋S.C.美術工芸サロンで開催した個展
今回は今まで経験してきた展覧会と、ある意味ではまるで違っていた。
私にとってこの展覧会は、それまでの現実と地続きで、その前後の時間のほんの一部分だった気がする。
3月末の検査で病が突如発覚した時は、既に展覧会1か月前に差し掛かろうとしていた。
案内状の発注も終わり、これから最後のひと踏ん張りという時を目前にしていた。
見る余裕もないのに見ないわけにもいかない現実に精神的にも追い詰められ、肉体的にもにわかに不調に傾き、いろいろなバランスを取りながら仕事を追い込んでいかなければならなくなってしまった。
元々、最近続けている地層の色から発想したシリーズを大きく展開するつもりだったが、最後の踏ん張りがきかないことが見えてしまったところで、方向を広げ、これまで制作してきた釉薬のシリーズを対比させるように展開することを選ばざるをえなくなってしまった。
展覧会はいつでもその時にできる最適解なのだが、いつも以上にそれはぎりぎりの選択だったように思う。
そんなわけで、今回の展覧会に向けて制作した新作の「Terra Roxaテラローシャ*」という作品に込めたイメージに続く作品群と、近年髙島屋では発表できていなかった釉薬を使った作品「清冽」に代表される、白~茶~黒を基調にした作品群を対比させるように展示させていただくことになった。
良く言えば、前回の「地のパレット」よりも幅のある、より私の素の世界観を展開できたように思う。
結果しかないのが展覧会だという意味では、これまでやってきた陶芸制作を見直す、こんなことにでもならない限りできなかっただろう、私にとっては貴重な機会になった。
展覧会はいつでも一期一会で、いつも来て下さっている方々も、久しぶりにお会いした方もいる。偶然に出くわした貴重な再会も今回は特に多かった。そして長年来て下さっていた方の来られなくなってしまったというお知らせも多かったように思う。
一週間弱の会期でお会いできる方々は本当に限られているし、それに向けて遠くから足をお運びいただいた方々にも改めて感謝申し上げたい。
我ながらの不養生というかやはり思いもかけないことは突然やってくるし、仕方ないこととはいえ、会を支えて下さった多くの皆様に、何とかご迷惑にならずに会期を終えることが出来たのは幸いだった。
あれから4カ月を過ぎ、治療は次の段階に差しかかっているが、おかげさまで現代の医療の現在地を生で体験出来ている面白さには、また違う醍醐味を感じている。
これはまた別の機会に、今回はご報告まで。
*Terra Roxa:テラローシャ(ポルトガル語)と発音する。ブラジルサンパウロ州からミナスゼライス州にかけての玄武岩からできた赤紫色の土を指す。肥沃でコーヒー栽培に適する土壌で、小学校時代を過ごしたサンパウロの赤茶の台地の、記憶の底にあるこの色をいつか形にしてみたかった。
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