top of page
検索
  • 執筆者の写真しのづか裕子

樋口さんとおはなししよう会 その2

(その1 のつづき)


A ケイ石は92%が二酸化ケイ素SiO₂(縮めて珪酸)で出来ている。

珪酸は長石、カオリン、タルクなど他の原料にも複合的に含まれる。

珪酸は釉薬の骨材であり、ほとんどの物質とは違う非常に特殊な性質を持っていて、この性質が無ければ焼き物は成立しなかったといえる。


水は氷という固体になっても溶ければ再び水に戻る。

珪酸は高温になって熔けると結晶が壊れて、再び冷めても結晶は壊れたまま元には戻らない(非晶化)。

もし他の物質の様に冷めて元の状態になったら、釉薬を掛けた時と同じ粉末の状態で窯から出てくることになる。

本来珪酸の熔融温度は1710℃である。

アルカリ(土類)元素は珪酸の破壊剤で、珪酸の結晶を壊す役割をする。

破壊剤はいろいろある。炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸リチウム、炭酸ストロンチウム、ソーダ類など。

骨材は珪酸SiO₂だけである。

第三の要素、にアルミナAl₂O₃は骨材の修復材である。壊しただけだとただ流れてしまう珪酸に粘性をあたえ、繋ぎとめる役割をしている。


貫入対策として、土を変えるのではなく、素地にケイ石を意図的に加えるということは産業陶器業界では良く知られている。

テストは必要だが、素地に含まれる珪酸が高温で溶けて冷え固まる訳だが(非晶化)、珪酸分が多すぎると破壊剤がキチンと働かないために、溶けない珪酸分が残る。

溶けなかった珪酸分は220℃の時、高温型クリストバライトから低温型に戻ることができ、体積で3%収縮する。そのタイミングが釉薬の貫入が入るタイミングと合う場合、貫入を防止することが出来る。この場合の収縮は素地全体の収縮率とは区別して捉える必要がある。220℃の時に釉薬の収縮と同時に起きるかどうかということが、貫入には重要な点である。



Q 冷め割れのメカニズムについて

磁器のほうが多く見るように思うが、これはどうしてか?


A 釉薬と素地は化学的に言えばグラデーションで、高温になった時素地も少しは熔けている。

磁器は陶器と比べて、より釉薬に近くそのために透光性がある。

物理的強度で言えば低火度の楽焼、中火度のノベルティなどの白雲陶器、高火度の陶器、磁器となるが、磁器と一言で言ってもボーンチャイナは非常に透光性があるが、焼成温度は高くない。アルミナ粉の中に無釉で埋めて焼き、その後改めて低火度釉を掛けて焼いている。

熱衝撃や打衝撃のことを言えば、磁土は弱いが、陶器、炻器類は熱伝導が遅く、柔軟性がある。



Q 青磁など貫入が斜めに入るものを良く見るが磁器のほうが戻る力が大きいのか?


A 粘土鉱物は30~40種類ほどある。カオリナイト、セリサイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、テッカイト、イライトetc。磁器は主にカオリナイトで出来ている。繋ぎによく使う木節粘土はセリサイト、ヌルヌルなベントナイトはモンモリロナイトが多い。

(紙ナプキンをちぎってカオリナイト、セリサイト、モンモリロナイトの粒子の大きさの比較を見せてくれる)

このように見ると、磁器の原料になるカオリナイトはこの中で格段に粒子が荒い。

削りの時にボリボリ削れてしまって、乾いてから刃物のようなカンナで削らなければ上手く削れないのはこのためである。

全ての粘土鉱物は板状の構造をしている。それが練っている時は割といろいろな方向を向いているのが、ロクロで繰り返し轢いているうちに板状の組織が揃ってきて強度が出てくる。

磁器の貫入、冷め割れもその辺りが影響しているかもしれない。



Q 底の切れのこと


A (樋口さんが手元にあった紙ナプキンをたくさん切って、紙の束を作って実演してくれる。)

側面はそのように固く構造も強くなりやすいのに対して、底の部分はそこまで締めることが出来にくいことと、特に水が溜まっている場合、組織が緩んでしまっている。

(束にした紙をS字に捩じった後それを緩めた時S字に隙間ができた)

乾燥していく過程で轢いたのと逆の方向に巻き戻ることは良く知られているが、底も同じ力が働くときに緩んでしまっている構造は切れに繋がりやすい。



Q 口縁の釉薬が点々と釉切れを起こす事例について


A 粘土は通常業者が掘った原土を精製、水簸してフィルタープレスで水分を調整した上で製品にしたものが流通しているが、何らかの理由で可溶性塩類が含まれていることがある。

乾燥は通常縁から乾いてくるが、それに伴って毛細管現象で作品粘土内に含まれる可溶性塩類が縁に凝縮されてくることになる。

そのために縁を素焼きの時に紙やすりで少し削って改善することは可能。

ただし、釉薬に入っている場合は釉薬を何度か上水を変えるなどの必要があると思われる。


R 学生が作った作品で、掘った原土で焼いた作品が手でポリポリと縁が割れたという話を、参加者が話されていた。



時間オーバーしたところでお開き、その後それぞれ皆さんの作品の写真など披露したりサイン会になったり、盛り上がったままおしまいになりました。


今回はあくまで流れの中から出た会話をまとめたものですので、系統だったものではなく、あくまで参加者の皆さんの活発な議論の中から創造していった内容でもあるということはご了承ください。



やきものの科学   著者 樋口わかな 

2021.5.28発行 誠文堂新光社  定価3500円

ISBN978-4-416-52161-8




閲覧数:27回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page